« 外交における靖国神社「問題」の起源と歴史 Part 2 ‐小泉参拝と歴史認識の相対性‐ | トップページ | 父の背中 ‐亡き父・晋太郎氏を偲ぶ安倍首相‐ »

2013年5月12日 (日)

安倍首相「憲法を国民の手に取り戻す」 ‐一方国民を信用しない反日メディア‐

14_2
(写真は国立公文書館ホームページより)


4月9日、衆院憲法審査会で憲法改正案の発議要件を定める96条について初めての議論が行われた。自民党、日本維新の会、みんなの党は改正に前向きな立場を表明する一方、民主党、公明党は慎重な姿勢を、共産党と生活の党は反対を表明した(4月9日付YOMIURI ONLINE)。

現行の憲法96条では、憲法改正の手続きについて、(1)衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成で発議(国民に提案)し、(2)国民投票で過半数の賛成が必要、と定めている。

安倍首相始め自民党は、「国会が憲法改正を発議しやすくするための96条の改正は、憲法に対する国民の意見表明の機会を担保するものだ」と主張している。具体的には、発議要件を3分の2以上から過半数へと変えるということだ。しかし連立与党の公明党が、「憲法のほかの条文に先行して改正することには慎重であるべきだ」と主張しているため、先行きは不透明だと言える(4月12日付NHK NEWSWEB)。

96条改正に関してのメディアの論調は、分かりやすく保守対左翼に分かれている。産経・読売が賛成、朝日・毎日が反対という「通常」の構図だ。

産経は5月11日付の「国民の判断を信頼したい」と題した社説で憲法96条を、「憲法改正を求める多くの国民の意向をないがしろにし、現実離れした『不磨の大典』を守り抜く硬直的な姿勢と言わざるを得ない」と批判。「発議要件を『過半数』に引き下げることで、改正への民意をくみとることができるという考えは極めて妥当なものだ」、「国民が憲法を自らの手に取り戻すため、発議を阻んでいる壁を取り除かなければならない」とし、安倍首相の「憲法を国民の手に取り戻す」との主張を支持し、96条の改正を主張する。

読売も5月10日付社説で、「日本の憲法は世界でも指折りの改正困難な硬性憲法である。制定後、一度も改正されていないのはその証左だ。内外情勢の変化に的確に対応するには発議要件緩和が必要」として、96条改正を支持。また、共産党による、「憲法は国民の人権を保障するために国家を縛るものとする立憲主義の理念を強調し、『権力者が憲法の発議要件を一般の法律並みに引き下げるのは禁じ手だ』」という96条改正反対の主張に対して、「発議のハードルを下げるだけで権力に歯止めがかからなくなるという論理には飛躍がある。最終決定権は、あくまで国民にあり、通常の法律と変わらないとの指摘も当たらない。ここで立憲主義を持ち出すのは的はずれだ」と指摘。

一方朝日は、5月3日付の社説で「 憲法を考える‐変えていいこと、ならぬこと」と題し、共産党と同様、立憲主義の観点から96条改正を批判。発議要件を緩和することによって、「大切にすべきものが削られたり、ゆがめられたりするおそれはないのか。いまを生きる私たちだけでなく、子や孫の世代にもかかわる問題だ」と懸念を示す。そして、アメリカ、デンマークの例を挙げ、「各国はさまざまなやり方で憲法改正に高いハードルを設けている」とした上で(諸外国のハードルが高いのか否かについては後で議論させていただく)、 以下のように安倍首相を批判する。

「首相は『国民の手に憲法を取り戻す』という。改正のハードルが高すぎて、国民から投票の権利を奪っているというのだ。これは論理のすり替えだ。各国が高い壁を乗り越え、何度も憲法を改めていることを見ても、それは明らかだろう。改めるべき条項があれば、国民にその必要性を十分説く。国会で議論を尽くし、党派を超えて大多数の合意を得る。そうした努力もせぬまま、ルールを易(やす)きに変えるというのは責任の放棄ではないか」。

毎日は5月3日付社説のタイトルを「憲法と改憲手続き 96条の改正に反対する」とし、明確に反対を表明。「その時の多数派が一時的な勢いで変えてはならない普遍の原理を定めたのが憲法なのであり、改憲には厳格な要件が必要だ。ゆえに私たちは、96条改正に反対する」と論じる。また、朝日同様、頻繁に憲法改正を行っている諸外国も憲法改正のハードルは高いとし、ドイツの例を挙げ、「改憲のハードルの高さと改憲の回数に因果関係はない。問われるべきは改憲手続きではなく、改憲論議の質と成熟度だ。改憲してきた国にはそれがあった。日本にはなかった」とする。

そして、「私たちは、戦後日本の平和と発展を支えてきた憲法を評価する。その精神を生かしつつ、時代に合わせて変えるべきものがあれば、改憲手続きの緩和から入るのではなく、中身を論ずべきだと考える。国会は堂々と、正面から『3分の2』の壁に立ち向かうべきである」と、現行憲法護持の強い姿勢を見せる。

さて、上述の朝日・毎日の社説では、海外の憲法改正のハードルは十分高いとされているが、実際のところどうなのか。以下、主要国、及び朝日が言及したデンマークの憲法改正要件の概要を記してみる。


アメリカ
連邦議会両院の3分の2以上が必要と認める時、修正が発議され(または州議会の4分の3以上が要求した場合は特別に「憲法会議」を召集)、全州の4分の3以上の議会によって(または憲法会議で4分の3の州の賛成があれば)承認される。国民投票不要。

フランス
基本的には国会(二院制)による過半数の議決の後、国民投票による過半数の承認で憲法改正が成立。ただし、政府が提出した改正案は、大統領が国会を両院合同会議として召集し、ここで改正案を審議することにしたときは、国民投票は行われず、同会議での5分の3以上の多数で改正が成立する。

イギリス
不文憲法の国であるため、慣習を変更する法律を作ったり、新たな重要法を制定すれば、憲法改正可能。この場合、特に特別な多数決は必要なく、一般の法律と同様、単純過半数の多数決で改正。国民投票不要。

ドイツ
連邦議会両院の3分の2以上の多数による可決で改正可能。国民投票不要。

カナダ

連邦議会両院の過半数での議決、3分の2以上の州議会の議決(議決した州人口が全体の過半数必要)によって改正可能。国民投票不要。

デンマーク
総選挙をはさみ、国会(一院制)において同一文言で二回憲法改正案を可決(=過半数)し、二度目の可決後、6カ月以内に国民投票に付託しなければならない。憲法改正案が承認されるためには、国民投票の参加者の過半数の賛成と全有権者の40パーセントの賛成が必要。


これらの国々における憲法改正の手続きを比較すると、連邦制で各州が高度な自治権を持つアメリカ、カナダでは州議会での議決が国民投票に準ずるものだと考えられるが、同じ連邦制のドイツは州議会による議決を必要としない。一方で日本が手本とした議院内閣制のイギリスでは、通常の法律と同様の手続きで憲法改正が可能であり、国民投票も必要ない。

結論としては、イギリス、及びドイツの憲法改正へのハードルは日本の現行制度より明らかに低いと言うことはできるが、それ以外の国については、一概に論じることはできない。一つ言えることは、自民党が主張するように、96条の3分の2を過半数にした場合、フランスの現行制度に極めて近くなるこということだ。それを踏まえると、96条を改正したとしても、諸外国に比べて著しく憲法改正へのハードルが低くなるとまでは言えないだろう。何故なら、国民投票での過半数は必ず必要になるのだから。

発議要件を両院での過半数とする場合には、デンマークのように、国民投票の参加者の過半数の賛成に加え、全有権者の40パーセントの賛成が必要というような手だてを講じることもできるし、自民党石破茂幹事長が発言したように(本日5月12日付msn産経ニュース)、現状の「国民投票での過半数」という数値自体を厳格化(例えば5分の3にするなど)することも考えられよう。

朝日・毎日による「まずは3分の2の多数確保を目指すべき」という主張を否定はしない。96条を改正するためには、いずれにせよ3分の2が必要となるのだから。ただ、彼らの、発議要件が緩和されれば、あたかも憲法が「改悪」されるかのような、ヒステリックな議論に与することはできない。国会でのハードルが低くなってもその後ろには主権者たる国民が控えているにも拘らず、彼らの主張には、その主権者を信用しない、あるいは蔑ろにするような匂いを感じるのだ。

例えば上述の社説の中で朝日は、発議要件緩和について、「これでは一般の法改正とほぼ同じように発議でき、権力の歯止めの用をなさない」と断じている。「権力」ではないものの、一般の法改正とは決定的に異なる「国民投票」という「歯止め」を完全に無視し、上述のイギリスのような要件の国もあることを報じようとはしない(極論すれば、主権国家である以上、外国の制度を模倣する必要はないのだが…)。

確かに「民意」は移ろいやすく、ここ数年の政治の不安定化をもたらしている元凶と言えるかもしれない。2009年の政権交代、そして昨年の自民党の政権復帰がそれを象徴している。それでも、朝日・毎日などの護憲勢力がどうしても変えまいとする日本国憲法の第1条で規定されているように、国民こそが主権者なのだ。

現行憲法堅持を主張しながら、その憲法で一番に規定されている、主権者たる国民を信用していない。それを矛盾と言わずに何と言おう。しかも、これまで国民を「偏向報道」、あるいは「報道しない自由」によって欺き、その判断を誤らせてきたのは、彼ら左翼メディア自身だ。上述の社説で毎日は、「改憲論議の質と成熟度」が諸外国にはあり、日本にはなかったと論じているが、それを妨げてきたのもまた、「護憲」ありきで国民を洗脳してきた彼らの罪だろう。

そう考えれば、主権者たる国民に憲法改正の正否を判断させることには大きな意味があると考える。その前提として、改正条文の意味するところを明確に規定し、官僚お得意の「逃げ道」、「落とし穴」のようなことは一切排除する。そして、メディアは立場を明確にし、徹底的に議論し、国民に対して十分な判断材料を提供する。それはこの国にとって実り多きものになるだろう。

おそらく、極左の現行憲法教条主義者の頭の中では、「96条を改正すれば9条を改正する。そして9条を改正すれば戦争が起こる。よって、96条を改正すれば戦争が起こる」というあり得ない三段論法が展開されているのだろう。あるいは、それはまだましで、下手に国民の憲法に対する興味を喚起すると、彼らが支持する勢力(それは彼らが言うところの「世界」かもしれないが)にとってマイナスになると考えているのかもしれない。

そのような観点から考えれば、安倍首相が主張する「国民の手に憲法を取り戻す」とは、文字通り国民が憲法について論じる機会を得ることになるであろうし、この国の主権国家としての在り方を、国民一人ひとりが真剣に考える絶好のチャンスになるとも言える。

憲法がどう変わろうとも、戦争したいと思う人間など今のこの国にはほとんどいない。それを、いわゆる「平和憲法」に少しでも手を加えれば、直ちに戦争に繋がるなどと主張する人々を、とても正常だとは考えられない。反日国を利する報道を繰り返すメディア、また世界(=特ア)の利益を最優先する特定の政治家のような連中は、「真の日本人」から見れば、異常で当然なのかもしれないが。そのような勢力に対して声を大にして伝えておきたい。「日本人はそれほどバカじゃない」!


↓ワンクリックでご声援いただければ幸いです。
にほんブログ村 政治ブログ 政治評論へ

« 外交における靖国神社「問題」の起源と歴史 Part 2 ‐小泉参拝と歴史認識の相対性‐ | トップページ | 父の背中 ‐亡き父・晋太郎氏を偲ぶ安倍首相‐ »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

「名無し」さん、こんばんは。拙ブログにお立ち寄りいただき、コメントをいただきましたこと、感謝申し上げます。ありがとうございました。

僕の素性も分からないのに、「低学歴の糞馬鹿」と断ずるとは、あなたは超能力者ですか?

「低学歴」、「高学歴」の判断はあくまで主観的なものですので、それについて争うつもりはありませんが、参考までに僕の最終学歴は、僕が専攻した分野ではアメリカでトップとされている大学院です。もちろん、だからといって、僕が賢いとは限りませんが。

あなたのような言い方をされる方にいつもお伝えしているのですが、例えあなたがどれほど素晴らしいご主張をお持ちでも、具体的な論点を示すことなく、「バカ」という抽象的、かつ日本人の価値観として許容し得ない無礼な発言をされると、むしろ僕の主張を強化することになってしまいますよ。

日本人として何かを主張したいのであれば、まずは日本人として恥ずかしくない日本語を勉強してください。もっとも、あなたが日本人でないのであれば議論の余地はありませんが。

説得力のある反論をお待ちしています。

おまえみたいな低学歴の糞馬鹿が多いから96条改定に反対なんだよ!
死ねよ

ありがとうさん、こんばんは。いつもコメントいただきまして、ありがとうございます。返信が遅くなりまして済みません。

憲法改正に対して、一般の法律制定よりも高いハードルを課すのは、その性格上やむを得ないと思います。ただ、ご指摘の通り、仮に圧倒的多数の国民が憲法改正を行いたいと考えても、国会の3分の1の多数のみで、国民は関与することすら許されないという現行制度は、やはり改善されるべきですよね。

戦後これまでの政治家の責任も然ることながら、憲法に対して国民を、「由らしむべし知らしむべからず」の如き状況に置いてきたメディアが一番の問題だったのだと考えます。国民のメディアに対する目がさらに開かれれば、より良き日本になるものと思います。

そもそも議員内閣制の日本で〝時の権力者″といえば国会の多数派、つまり与党のことに決まっているでしょう。その与党が憲法改正出来ないなんて、言ってることが無茶苦茶ですよ。現状では国民の圧倒的多数が憲法改正を望んでも国会の3分の1の議員が反対すれば改正の議論すら出来ません。こんな異常な状況は改善されるべきですよね。

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

« 外交における靖国神社「問題」の起源と歴史 Part 2 ‐小泉参拝と歴史認識の相対性‐ | トップページ | 父の背中 ‐亡き父・晋太郎氏を偲ぶ安倍首相‐ »

フォト

アクセスカウンター

2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

著作権

  • Copyright © 2012-2013 Mich Maruyama All Rights Reserved.