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2013年2月16日 (土)

TPP交渉参加は是か非か? Part 1 ‐「参加推し」メディアの気持ち悪い横並び‐

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(写真はWikipediaより)


アメリカのオバマ大統領は、2月12日の一般教書演説で、アジア市場への輸出拡大を目指し、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉妥結を目指すと明言した。

産経新聞曰く、「オバマ大統領がTPP交渉の妥結を強調したのは、輸出促進や雇用創出、アジア市場の公平な競争条件の確保につなげるためだ。演説では交渉スケジュールについて確約しなかったが、交渉参加国は今秋の交渉妥結に向けた協議を加速させるとみられる。オバマ大統領は今月下旬の安倍晋三首相との日米首脳会談で、交渉参加への期待感を示す可能性もある」とのことだ(Yahooニュース参照)。

このオバマ大統領の一般教書演説、及び安倍首相の訪米を踏まえ、朝日、毎日、日経が、昨日2月15日付の社説においてTPPについて言及した。

日経は、安倍内閣が6月にもまとめるとされる「成長戦略」で、製造業の復活を目指す「日本産業再興プラン」や、企業の海外展開を支える「国際展開戦略」などを柱に据えるという構想との関連で、「海外への輸出や投資で稼ぐ力と、海外の資金や人材を呼び込む力を高めるには、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加や法人税減税が欠かせない。医療や介護などの規制を緩和し、国内の需要を掘り起こす必要もある」と主張。

「今夏の参院選に勝つために、TPPや規制改革に反対する勢力の利益を守り、不要不急の公共事業だけを積み上げるのでは困る。安倍政権が本気で経済再生を目指すのなら、中身の濃い成長戦略をまとめなければならない」と、TPP反対陣営は、成長戦略を阻害する勢力であるとの論調(昨日付社説参照)。

朝日も昨日付の社説で、「まもなく日米首脳会談が開かれる。絶好の機会ではないか。安倍首相は交渉への参加を表明すべきだ」と主張。「当事者となってTPPの実態をつかみ、わが国の利害を反映させる。農産物などの関税引き下げに加え、サービスや投資など20を超える交渉分野全体で利害得失を見極め、実際に加わるかどうかを決める」ことが重要であり、TPPの関税交渉では「全ての品目を対象にする」のが原則ではあるが、「完全撤廃」とは限らないとし、「あとは自らの交渉力次第、ということである」としている。

毎日の論調も基本的には朝日と同様だが、「…残された時間が少なくなってきた。政府与党内では、参加の是非を巡る綱引きが続くが、決断が遅れるほどTPPの貿易・投資ルールに日本の意向を反映しにくくなる」、「今回の日米首脳会談後に日本が交渉参加を表明したとしても、米国には新しい参加国を認める手続きに議会が90日以上かけるルールがあるため、交渉のチャンスは9月の1回しかない。参院選後にずれ込めば、その機会も失われることになる」と、とにかく時間がないと主張(昨日付社説参照)。

上述3紙以外の産経も、「TPPと自民党 交渉参加を前提に議論を」と題した2月2日付社説で、「参加によるデメリットなど、入り口の議論にばかり時間を費やしていては、結論先送りの口実にしているとみられよう。米国などは今秋の基本合意を目指し交渉を先行させている。このままだと、日本は結局、『蚊帳の外』で終わりかねない」と、早急に参加表明することを提言。

読売も2月8日付社説で、「安倍首相は、最優先課題の経済再生を実現するためにも、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に前向きに取り組むべきである」としたうえで、衆議院予算委員会での首相の「例外なき関税撤廃を前提とする限り反対する」との発言を、「自民党公約の域を出なかった。今月下旬の日米首脳会談についても『参加に言及しなければならないことはない』と語るにとどめた。何とも腰の引けた姿勢だ。」と批判。

本ブログの記事「産経新聞が示す『読売・産経 VS 朝日・毎日』の構図 ‐熱く議論せよ既存メディア 'To be, or not to be, that is the question'‐」で以前議論させていただいたように、通常、完全に主張が異なることが多い大手メディアが、右から左までこぞって「TPP交渉に参加すべき」と主張するのは異例であり、メディア・ウォッチャーの僕からすれば、このような場合は、何らかの力が働いていると考えるのが自然である。

今回に関して言えば、各紙とも、経団連始め各種経済団体の意向を反映した論調になっていると考えられる。

経団連は、超TPP推進派である。彼らの主張を、相当ざっくり、そしてかなり乱暴にまとめると、「俺らは世界中でビジネスを展開したいのだから、そのためにはアメリカの意向に逆らうことはできない。つまらんことで、俺たち『リーディング・カンパニー』の邪魔をするな!」ということに尽きると言える。TPPが切り拓く「バラ色の未来」が経団連のホームページで紹介されているので、まぁ、一応ご覧いただいても無駄ではないかもしれない。

経団連始め経済団体というものは、所詮自分たちの利益が一番であり、国益など関係ない。それは経団連会長の米倉弘昌氏による対中発言などを思い出していただければ自明だろう。彼らは利益「のみ」を追求する連中であるので、それはある意味当然であるし、勝手にしろと思う。しかし、それをメディアが諸手を挙げて、無批判に応援するのは異常としか思えない。

そうしたメディアのスタンスは今回に限らず、消費増税の時もそうだった。全てのメディアが増税を支持し、その記事・社説・読者投稿などを総動員して、「増税やむなし」の世論を「創り上げた」。連中は所詮、財界の「犬」なのだ。

企業広報担当者としての個人的な経験を言えば、企業を担当している記者にとっては、企業側から記事を、しかも、ものすごくニュース・バリューのある情報を提供をしてもらうことが最も大切なことであり、その企業の倫理であるとか、消費者の利益などというものは二の次だ。

広報担当者時代、大手メディアの経済部、産業部の記者に対しては、頻繁に飲食の接待を行った。平均的な国民はなかなか行くことができないような高級料理店で食事をした後、六本木などのクラブで飲食を共にした。もちろん、費用は全て企業持ち。それほど癒着した関係にあって、彼らが企業をまともに批判できるはずがない。

「でも、企業が不祥事を起こした時、メディアは思い切り叩くよね」という方もおられよう。それは全くその通りである。ただし、企業を叩くのはメディアの「社会部」の記者であり、経済・産業部の記者は、「今回はお気の毒でしたね」などと、問題を起こした企業に同情してくれているというのが実情だ。

経済団体の主張をそのまま自社の意見として拡散するメディアの根本には、このような企業との癒着がある。それが、この日本におけるメディアと企業の関係なのだ。

普段は、その主義・主張で激しく対立している読売・産経と、朝日・毎日がその社説等において同様な主張する場合、主に二つのケースがある。

ひとつは、例えば北朝鮮による核実験強行のような、ごく普通の日本人が考えて明らかに批判されるべき事象。この場合、例え朝日・毎日のような左翼メディアといえども、それを肯定するような論調を取れば、国民から「国賊」とレッテルを貼られることは間違いないので、さすがに連中も擁護のしようがない。

もうひとつは、賛否両論はあるものの、財界が明確な方向性を示している場合。このケースでは、財界に反旗を翻し、独自の主張を展開する大手メディアはまずない。それは、上述のように、記者と企業が癒着していることはもちろんではあるが、財界というものは既得権益であり、大手メディア自身も既得権益から利益を得ているからである。

どれほど銃乱射事件が発生し、多数の無辜の市民が犠牲になろうとも、アメリカでは決して銃規制を立法化できない。それはNRAという、銃を持つことはアメリカ人の権利であるという主張を展開し、市民が何百人犠牲になろうが「ビジネス」として自身の利益を追求し続けるロビーイストが存在するからだ。

状況は日本でも同じだ。各種利益団体からの圧力を受け、多くの政治家は、多少疑問に思う事柄であっても、選挙、政治資金といった観点から、その「疑問」をうやむやにしてしまう。古今東西、それが政治家というものなのだ。選挙で勝ち、政治家としての権力を持たなければ、自身が目指す理想(そういうものを持っていればの話だが)に迫ることができないのだから(決してそれが正しいことだとは思わないが)。

百歩譲って政治家とはそんな連中だと割り切ることはできても、メディアはどうか。そうした政治家、そしてそれに連なる利益団体の横暴を許さず、それをチェックすることこそ、メディアに求められる役割であり、それゆえ、国民もある程度メディアの「お行儀の悪さ」を許容しているのだ。

ところが、期待されている役割を果たすこともなく、それでいて国民の代表を気取っているようなメディアなど存在価値はない。

TPPが、真に日本国民の利益となるものなのかどうか、平均的な国民は十分に理解できていない。メディアが信念を持って、その交渉参加を主張しているのであればそれはそれでいい。しかし、特定勢力との癒着によって世論を「創造」しようとしているのであれば、それは決して許されることではない。

今回のまとめとしては、理念も思想も決して一致しないメディアが異口同音にひとつの政策なり、考え方を支持している場合、そこには何らかの力が働いていると考えるべきだということ。

特にTPPのように、各種団体において賛否が大きく割れているにもかかわらず、メディアの主張が完全に一致しているなどということは不自然極まりない。皆さんには、その背景にあるものに注意を払っていただきたい。
(この章続く)

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