TPP交渉参加は是か非か? Part 2 ‐安倍首相を信じるがゆえ自民のスタンスを支持‐
(写真は安倍首相fbページより)
安倍首相はオバマ大統領との日米首脳会談のため、アメリカに出発した。首相は自身のfbページで、「これまでの3年余りで大きく揺らいだ日米の絆を取り戻すべく、オバマ大統領とは、同盟強化の方向性について率直に議論し、日米同盟の復活を内外に示したいと思っています」と意欲を示した。
日米同盟の再構築に加え、TPPもまた、日米首脳会談での重要なテーマとなることは間違いない。首相の国会での答弁を見る限り、今回の会談でオバマ大統領に対して、安易に交渉参加の言質を与えることはないと推察するが、大統領からは相当なプレッシャーが与えられるであろうことは容易に想像できる。
本ブログでは、前回の記事「TPP交渉参加は是か非か? Part 1 ‐「参加推し」メディアの気持ち悪い横並び‐」で、財界の意向を反映し、TPP参加を強く主張するメディアの横並び報道を批判させていただいた。
極めて個人的な意見を述べさせてもらえば、関税障壁撤廃によって、美味しいアメリカ牛を安く食べられるようになるのであれば、大変ありがたい。アメリカのスーパーでは、様々な種類のステーキ用の牛肉が安価で売られている。和牛のようなコクはないかもしれないが、赤みの美味しさを十分に感じることができ、実に旨い。アメリカに滞在してその牛肉が大好きになった(グルメブログのようなコメントで済みません)。
しかし日本のスーパーで売られているアメリカ牛は、ほとんど「クズ」と言っていいレベルのものでしかない。種類が少ないうえ、僕がアメリカで食べたものに比べるとその品質も相当劣っている。これでは日本人が、「アメリカ牛は不味い」と思ってしまってもしようがない。このような日本で販売されている牛肉を見ると、「関税障壁」の存在を実感する次第である。
僕は経済、貿易等の専門家ではないが、ことはそれほど単純ではないということも理解している(と思う)。
そもそもTPPに参加することが、日本国全体としての利益に繋がるのだろうか?TPP肯定派側からの主張は「nikkei4946.com」、否定派側からの主張は「NHK解説委員室」をご参照いただきたい。
TPPによって「関税障壁」が撤廃されれば、大企業を中心とした、いわゆる輸出企業はその恩恵を受けることになるだろう。しかし、上記「NHK解説委員室」における京都大学准教授・中野剛志氏の、「TPP参加国の中で日本企業が輸出できそうな市場は、アメリカだけです。しかし、アメリカの関税は低く、例えば自動車の関税は2.5%に過ぎませんので、これを撤廃してもらってもあまり意味はありません。しかも、日本企業はグローバル化し、アメリカでの現地生産を進めていますので、関税があってもなくても、競争力とはほとんど関係がありません」と主張する。
現時点でのTPP参加国は、現加盟国はシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、交渉国はアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、カナダ、メキシコ。中国、韓国は不参加を明言している。
これらの国々のGDPを見ると、アメリカが14兆2,646億ドルで断トツ。オーストラリア、カナダ、メキシコは1兆ドルを超えてはいるのもの、それ以外の国々は極めて経済規模が小さい。日本のGDPが5兆4,589億ドルであることを考えると、TPPはまさに日本とアメリカとの貿易協定であり、それ以外は「その他大勢」と言っても差支えない(Wikipedia参照)。
中野氏はさらに、TPPによるメリットは上述のように「軽微」なものである一方、アメリカから「攻め込まれる」分野となる、農業を始め、銀行、保険、雇用、食の安全、環境規制、医療サービスなどの国内産業に対する打撃が「甚大」であると論じる。
総務省統計局による日本の「貿易依存度」のデータを見ると、2006年から2010年の日本の輸出依存度は十数%程度。TPPによってその割合を高めていくのだ、との考え方もあろうが、わずかその程度の輸出企業のために、それ以外の分野を「犠牲」にするのは極めて不合理であると、個人的には考える。
加えて、TPPをめぐる議論を見ていると、かつて吉川元忠氏がその著書『マネー敗戦』によって発した、「エコノミクスがエコノミクスとして終わらず、ポリティカル・エコノミーとなる」というメッセージが想起される。
この点に関しては、三橋貴明氏がブログにおいて「TPPと安全保障」と題した記事で展開した議論が興味深い。
同氏は、日本がTPPに参加することは安全保障に寄与する、との議論をナンセンスだとしたうえで、アメリカの狙いは「関税障壁」の撤廃に止まらず、「非関税障壁」なのだと主張する。
「『聖域なき関税撤廃』とは、別に『モノ(農産物含む)』の関税の話だけではないのです。アメリカの狙いは『サービス分野(金融、保険など)』や『投資』に関する我が国の『非関税障壁』(いわゆる規制)の撤廃です」。
三橋氏は、政府の規制なき自由によって日本の「国の形」を変え、アメリカのサービス企業や投資家が「自由に」ビジネスをやり、所得を稼げるようにしよう、というのがTPPの本質だと指摘したうえで、以下のように続ける。
「政府の規制とは『法律』ですから、日本国民の主権で決定することができます。ところが、TPPは国際条約なので、国内法の上に立ちます。わたくし達日本国民は、TPPという別の憲法を持つこととなり、主権が侵害されてしまいます。それも、『グローバル投資家』『グローバル企業』」の所得(利益)を拡大することを目的に」。
氏の指摘が的を射たものであるとするならば、TPPとは純粋に貿易における障壁を撤廃しようという議論ではなく、安全保障という別の要素をアメリカが匂わせ(あるいは、TPPによって利益を得る大企業がそれを吹聴して)、ごく少数の企業が利益を得るために、それ以外の日本の国益をアメリカに渡すことを意味するものだと思われる。
上で見たように、日本以外のTPP交渉国の経済規模は極めて小さいため、日本が参加しないTPPなど、アメリカにとって全く「旨み」がない。そう考えれば、アメリカは是が非でも日本を交渉に引きずり込もうとするだろう。
日米間のFTAあるいはEPAとは異なるTPPの「トリック」は、二国間での交渉とは異なり、ある事柄で日本がアメリカに異議を唱えたとしても、アメリカが他国にその影響力を行使し、「他国の同意が得られない」というロジックで、日本の主張を却下することが可能だという点にある。
そうなると、TPPは、経済・貿易におけるアメリカに対する「思いやり予算」となる可能性がある。しかもそれは国内産業に壊滅的な打撃を与え得る、安全保障におけるそれとは比べ物にならないほど、日本にとっての脅威となろう。
正直なところ、経済の専門家、政治家の間でも議論が大きく分かれるTPP交渉参加に関して、素人の僕が「絶対こうすることが正しい」などと断言することは不可能だ。
ただ、ここまで議論してきたことを考えると、結局のところ自民党の公約通り、「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します」という考え方がベターなのだろうと考える。
「聖域なき関税撤廃」の定義は何なのかという批判もあるが、僕なりに解釈すれば、セーフガードを一切認めることなく、いわば「ノーガード」での参加が前提となるのであれば、交渉には参加しないということなのだと考える。それは国家として当然の考え方であるし、無条件にTPP参加賛成・反対を唱える政党よりは、余程誠実かつ責任ある考え方だ。
加えて、上記議論のように「ポリティカル・エコノミー」という要素が付加されるのであれば、例え一時的に日米関係が悪化しようとも、参加を見合わせるという「英断」も必要となろう。
民主党の左翼政治家とは違い、安倍首相は、真の国益を追求する責任感を常に自身の羅針盤としていると信じている。
結果としてどのような方向性になろうが、僕は首相の決断を支持する。何故なら、彼がこの国の利益を毀損するような決断をするはずがないと信じているからだ。多くの皆さんも、そうお考えになっているのではないでしょうか。
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Ayakikkiさん、おはようございます。
安倍首相がまた結果を出しましたね!首脳会談前には、アメリカ側もどの程度日本に配慮するのか、必ずしも固まっていなかったのではないかと思います。
おそらくは、安倍首相がオバマ大統領との信頼関係構築に成功し、その結果が「TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」という共同声明の文言に繋がったのだと考えております。
様々な困難はあると思いますが、それらを乗り越え、何とか安倍首相で参院選で勝利したいですね!
投稿: Mich | 2013年2月23日 (土) 09時07分
TPPについてさん、おはようございます。本ブログにお立ち寄りいただき、コメントまでいただきまして、本当にありがとうございます。
また、貴重な情報をご提供いただきましたこと、心より感謝申し上げます。
日米首脳会談の結果、日本はTPP交渉参加の方向へ舵を切ることになりそうですね。交渉に参加することになったとして、今後はご指摘いただいた「国家主権」をどう守るか、ということがポイントになってきますね。
日本の利益がきちんと反映されたTPPにできるのかどうか、日本の交渉力が問われることになろうかと思いますが、今後も有益な情報をご提供いただければ幸いです。
引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。
投稿: Mich | 2013年2月23日 (土) 09時00分
伊阪ドンさん、おはようございます。
オバマ大統領とのTPP参加交渉は上手くいったようですね。これまでのアメリカ側の発言を考えれば、相当な譲歩を勝ち取ったと言えますね。
これは、ご指摘のような安倍首相の毅然とした態度に対して、大統領も敬意を表し、誠意を示したものと推察されます。
今後は反対派の拳をうまく下ろさせてあげることが重要となりますが、安倍首相であれば問題なくリーダーシップを発揮してくださることでしょう。
投稿: Mich | 2013年2月23日 (土) 08時47分
◇今頃、安倍首相は…
オバマ大統領と初の日米首脳会談を行っている頃です。
時機にかなった、「素晴らしいTPP論」をありがとうございます!
何せ国論真っ二つ!
「何が真の国益なのか?」
私自身も明確な持論を持てないまま、今日に至ります。
しかしながら、本稿にて展開されている「Michさんの主張」には、「全面的に同意」致します。
至極、真っ当な見解だと想います。
私たちが選んだ「安倍首相を信じる」…今は「それしか無い」のですね!
投稿: Ayakikki | 2013年2月23日 (土) 03時08分
こちらの記事をどうぞご覧ください。
『TPPに参加すると国家主権が奪われる』by bando様のブログ記事
http://ameblo.jp/tokyo-kouhatsu-bando/entry-11475261766.html
・グローバル化
(ヒト、モノ、カネ、の動きを国境や規制を飛び越えて自由にする事)
・国家主権
(自分の国の事は自分の国で決める権利)
・民主主義
(国民が政治に参加する事)
の、これら三つは、同時に存在する事が絶対にできない。
という理論、これが「世界経済の政治的トリレンマ」というものになります。
「ユーロのトリレンマ」「中国のトリレンマ」「アメリカのトリレンマ」そして「日本のトリレンマ」が非常に解かり易く説明されています。
TPPは、国家主権を奪う為に、資本力を持っている企業や団体によって、「資本家」の為に作られている国際条約です。
TPP背後に控える企業が記されています。
http://clusteramaryllis45.blog61.fc2.com/blog-entry-1166.html
投稿: TPPについて | 2013年2月22日 (金) 04時59分
TPP参加交渉。民主党政権下であれば断固反対でした。円高デフレを放置したまま消費増税を決行し、その状態でTPPに参加していたらと思うとゾっとします。民主党政権とマスコミがなぜ足並みを揃えてTPP参加&消費増税すべき論を展開したのか…真相は分かりませんが、本当に日本を滅ぼそうとする連中がシナリオを書いたんじゃないかと思うくらい危機的な状況であったのは確かだと思います。
しかし、今回訪米される安倍首相については心配していません。関税の撤廃により日本人の雇用が大きく損なわれるような分野に関しては、例外扱いするよう求めてくれると信じています。
なぜ楽観的になれるかと言えば、安倍首相は守るべき国柄のイメージというものをしっかりと持っておられるからです。例えば地元の山口県の棚田を引き合いに出して「こういう美しい風景を残していかなくては」などと仰っています。内閣官房参与の藤井氏も同様の主張をされていますが、数字(お金)に換算できない価値(美しい風景、人々の習俗、風習、伝統や価値観など)を受け継いでいく気持ちがあれば、聖域無き関税撤廃など受け入れられるハズがありません。過度な自由競争においては、非生産的、非効率的なモノは悪とみなされてしまうからです。
一方消費者の側から見れば、安くておいしい牛肉が入ってきて結構じゃないかという意見も当然あります。それはまったくその通りです。
ただ、可処分所得が少なくてそれしか買えないという状況と、ある程度余裕があって選択の結果それをチョイスしたというのとでは意味が違うと思うのです。
庶民が、ちょっと高くてもやっぱり国産メーカーの商品を購入しよう、というレベルまで景気を回復させてから、そしてさらにメイドインジャパンを買うことが日本人として当然である、という意識が広まってからの関税撤廃であれば、国内の産業も守れるんじゃないのかなと。
かつて石原慎太郎氏の著書に『Noと言える日本』というものがありました。
安倍首相は日本の国益を損なう、あるいは反するものには、たとえ相手が米国の大統領であってもNoと言える政治家だと信じています。
例えTPPを蹴ったところで、オバマが安倍首相に不信感を抱くとかそういう事はないと思います。
自国の国益を守るためにリーダーは断固たる姿勢を示す、その方が互いの信頼関係が築けるんじゃないかなと期待しております。
投稿: 伊阪ドン | 2013年2月22日 (金) 03時02分