iPS細胞「狂想曲」-読売新聞のレベル-
読売新聞は10月11日付の朝刊1面で「iPS心筋を移植」、「初の臨床応用」などという見出しで報じた、森口尚史氏に関する記事を誤報と認め、自らの非を認めない日本のメディアとしては異例の「おわび」を表明した(10月13日付YOMIURI ONLINE)。しかし同日、「検証「iPS移植報道」森口氏、治療の事実なし」と題して、どうして誤報に至ったかという釈明をしている記事においては、森口氏の説明が虚偽であったことを裏付ける説明を繰り返すばかりで、読売の取材体制にどのような問題点があったのかについては、一切説明がない。
メディアの専門家からすれば、上述の「おわび」も「検証」も「なんじゃこりゃ」というレベルの内容である。つまり、読売の紙面から読み取れることは、「僕たちも詐欺師に騙されたので、それはしようがないよね」というような、およそジャーナリストとしてのプロフェッショナリズムとはかけ離れた、その場凌ぎの言い逃れとしか読み取れない代物だ。読売始め、日本の、能力もないくせにお高くとまったメディアの方々は、メディア以外の企業がこの程度の説明をしたらボコボコに叩く。しかし自分たちには、あまいあまい。昔流行ったギャグのように「あまーい」のだ。
僕なりに分析させてもらえば、今回の読売の報道は、およそ日本を代表するメディアが記事にするには、あまりに杜撰なプロセスであったと言わざるを得ない.。京都大学の山中教授がノーベル医学・生理学賞を受賞した興奮冷めやらぬ中で、それに便乗して売名行為を行おうとしたペテン師に読売が振り回されたということであろう。
まずはこの森口尚史氏なる人物。一定の能力が備わった記者であれば、間違いなく信用できるか否か、十分判断できる。というのも、彼が一方的に、iPS細胞から心筋細胞を作り、心不全患者に細胞移植の治療を行ったとしていただけで、何ら資料等の裏付けがないのだから。
氏が患者への治療を試みたと主張している米マサチューセッツ総合病院は、「iPS細胞の臨床研究に関する申請自体がない。(森口氏による)手術は、当病院では一切行われていない」と述べ、森口氏の主張を全面的に否定している。広報担当者は、「私が言えるのは、彼はわずかの期間しかこの病院にはおらず、それから10年以上も過ぎたということだけだ」と言明。
同病院と密接な関係にあるとされるハーバード大も、「森口氏の研究に関連するいかなる臨床研究もハーバード大及び病院の倫理委員会によって承認されていない」との声明を発表した。
森口氏が今回発表するとしていた論文の「共同執筆者」として名前が挙がっていた研究者の方々も、「iPS細胞について共同研究したことはなく、論文に自分の名前が記されていることも知らなかった」と異口同音に話しているとのこと。
マサチューセッツ総合病院、ハーバード、そして論文の共同執筆者、いずれも読売が裏を取ろうと思えばそれほど困難を伴わず取材できる対象だ。それをすることなく、記事を掲載した後で、初めてそうした、当然事前に当たるべきソースに取材をして記事の内容を全否定されているという事実は、日本のというよりは、どの国であっても(一流と自負する)全国紙としては考えられない取材手法だと断じざるを得ない。
つまりこの記事は、森口尚史氏の話を基にストーリーが構成され、他の関連するソースにいっさい裏付けを取ることなく掲載されたということになる。三流週刊誌であればともかく、全国紙においてこうした報道はあり得ない。
僕がアメリカ時代に、インターンとしてローカル紙で働いていた時も、記事を掲載する前には、インタビューの内容に間違いないかどうか取材対象者の方々に確認したうえではじめて記事化できるというシステムであった。一人の人物が語ったことのみを、他の関係者を取材をすることなく紙面に掲載するということは、ジャーナリズムとしてあってはならない報道手法であるということは、ジャーナリズム専攻の学部生が1年生で習うレベルの「基本のき」である。
山中教授のノーベル賞受賞に乗じて、それに関連したバリューのある記事を掲載したかった読売の気持ちはよく分かる。だが、その記事化に至るプロセスは、学生新聞以下の粗雑さであった。
読売にとってより大きなダメージは、今回の記事に限らず、読売新聞の報道に対する姿勢は、政治にせよ経済にせよ、常にこの程度ではないのかと国民に疑念を抱かせたことである。記者クラブに属した記事待ち記者ばかりの日本のメディアは、大なり小なりこのレベルであることは間違いない。それにしても今回の読売の報道に至るまでのプロセスは、発行部数日本一の新聞社といえども、現実の報道体制はタブロイドと変わらないと世間に知らしめたという意味で、エポック・メーキングな出来事かもしれない。
僕がしつこく、繰り返し述べていることだが、メディアの報道なんてその程度のものなので、それが絶対であるなどとは決して信用してはいけない。これはレベルの違いはあれ、どの国でも共通の認識である。
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コメント
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彼はホントに日本人なのか疑問だ・・・。
投稿: | 2012年10月14日 (日) 00時29分